Initialize World BGM : https://www.youtube.com/watch?v=gcvP2OeiVkk&list=PLxZ96641NXO8RiKo4u0asuc4V5kWT9FtB  どこか。  遠くで。  雷鳴が聞こえた。  なんだか、とても懐かしくて……。  よく耳をそばだてると、木々のざわめく音が聞こえてくる。  鳥たちの声。  聞いたことのない、鳥たちの声。  雷鳴に、すこしざわついているようにも聞こえる。  けれど鳥たちの声はとてもキレイで、心地よくて。  いつまでも……  こうして……。  横たわっていたくなるような……。  横、たわる?  そういえば、今は何時だろう?  寝過ぎてしまったかしら?  いや。  寝過ぎてよかったような。  でも。  もう、寝るのに飽きたかもしれない。  いや、違う。  目が覚めたということは。  目が覚めてもよいということ。  自分の役目が、終わったと言うこと。  でも、それは……!! 「あ……」  葉々の間から漏れる日光に照らされて、目をしばたたかせる。  朝だ。  いや、違う。  自分の身体は土に埋もれており、頭の後ろには巨大な根が当たっているのが解る。 「ふぁ……」  同時に襲う、眠気。  いやいや、今まで寝ていたのだから、眠いはずはない。  身体は動くか?  試しによじってみるが、土が覆い被さっていて、思うように動かせない。  が、特に五体のどこかが痛いとか、そういうことはないようだ。 「ふぉ……!」  そうこうしているうちに、ぱらぱらと雨が降ってくる。  目に感じた光は、晴天のように明るかったと思ったのに。  いや、お天気雨かもしれない。  雨は葉々に当たり、いくつもの粒が葉を伝ううちに集まって、大きな粒となって樹の下に落ちてくる。  ぽつぽつ。  というよりは。  ぼたぼた?  いや。  ぼとぼと、かな。  などと思う。  自分を包んでいる土が黒く濡れていく。 「ん……」  身体に力を込める。  別にそんなに深く埋まっているわけではない。まるで木の根の上に横たわるように、自分の身体は浅く埋もれているだけだ。  両腕に力を入れて上半身を起こすと、ぼこっという音と共に、土が剥がれた。  その中から現れる、白く、傷一つない柔肌。  当然、衣服はない。  雨水に身を打たせて、土を洗い流す。  いつの間にか雨は、まとまった降りとなっていた。  だが、かつては自分はもっと地中深くに埋まっていたようだ。  身体にはまだ土に押しつぶされる感覚が残り、身体のあらゆる所に、この地表ではない土がこびりついていた。  それが、木の根に押し上げられたのか? それとも地殻変動でもあったのか……地表近くへ連れて行かれたようだった。  眠りにつく前、自分を取り囲んでいた様々な装置は、見る影もない。  それらはまだ地下深くに残っているのか、それとも……。  風化してしまったのか。 「ふぅ……」  辺りを見渡しても、木、木、木。  森が広がっている。  鳥のさえずりは、雨のせいか、いつの間にか聞こえなくなっていた。 「う……」  それに気付いた瞬間だった。  滝のような雨が降ってきた。  ど────────────っという雨の怒濤の音が辺り一面に響き渡り、視界が一気に灰色になってしまった。  とはいえ、おそらくこの地中で眠っていた間にも、幾度となくこのような雨には打たれたのだろうなとは思う。 「……」  まず、問題は着るものである。  元々着ていた衣服は疾うに朽ち果ててしまっている。  もっとも周囲を見渡す限り、人はいなさそうではある。  だが、服がないといろいろと不便だ。木に登って周囲を見渡すにも、これからどこかに移動するにも、裸では傷だらけになってしまう。  もちろん、靴もない。  人間とはすでに野生で暮らすには不便な身体になっているのだ。 「ふむー……」  自分が目覚めた場所は、森の中にあるということは……。  衣服を望むのは難しいのかもしれないと思った。  なぜなら、自分がこの地で眠りについたとき、ここは、街だったからだ。  自分が目を覚ますとき。  それは自分が不要になったとき。  自分が不要になったときとは……人が自分を必要としなくなったとき。  その時、自分は目醒めるはずだった。 「けれど……」  疾うに昔に必要なくなっていたのだろう。  どうして目醒めなかったのか解らないが。  必要とされなくなってから、この場所が森に覆われるほどに時間が経っているのだ。  それがどれくらいの時間なのかは解らない。  ふと、心臓のある右胸に、右手を当てる。  鼓動が伝わってくる。  決して止まることのない、心臓。  力強く。  規則正しく。  鼓動している。  自分の、全ての源。 「すぅ……」  大きく深呼吸した。  酸素濃度は、眠りにつく前よりも少し多い気がした。  そして息を止め、目をつむり……心を落ち着かせる。  目を閉じると、心臓の鼓動が、耳の奥からわき出すように大きくなった。  雨は自分をまだ叩き続けている。  だが、雨の音は、いつの間にか気にならなくなっていた。  身体中に力を込め、心臓から伝わる力を引き出す。  胸が炎がついたかのように熱くなる。  そう、この感覚。  この力……! 「起炎(ハジメノホムラ)!!!」  止めていた息を一気に吐き出すと、内なる炎を解放する。  雨音にも、そして雷鳴にも負けない、大轟音。  巨大な火柱が立ち上り、自らを炎に包み込む。 「うんむ!」  気分は上々。  身体の調子は、どこも悪くない。  酸素濃度が高い分、いつもよりも燃焼が激しいような気がした。  さて……。  どこに行こう?  もう一度あたりを見渡す。  辺りは、木、木、木……森がずっと広がっている。 「………」  人に出会うまで旅をするのも良い。  人がいなかったら……。  この自然と、あきるまでとことんくらせば良い。  宇宙の中で孤独に光り続ける星々よりも、何倍もマシである。  いや、その前に、我が主を探さねばならない。  あの傲慢で自己中な天使は地球が滅びたって死んだりはしない。この世界のどこかにいるはずである。  時間はたっぷりある。  この星が朽ち果てても。  自分が朽ち果てることはないのだから。